東京シンフォニアのサウンド
まず、マネジメントの面からは、グループダイナミックを取り入れました。グループとしてふつう、一人一人のメンバーが、自分がグループのために貢献していると感じられる人数は5人がマックスです。(それ以上になると、グループは、中核になる人たちと、それ以外の人たちに分離してしまいます)。私は、すべての演奏者に、自分がオーケストラにエネルギーを与える重要な存在なのだということを感じてほしかったのです。そこで、パートの最大人数を5人としました。
次にハーモニーの点では、音の科学を取り入れました。上音(基音より振動数の多いもの)は、基礎となるベースから派生します。ベースは音の構造の中心となるので、アンサンブルの真中に配置し、高い音を両側にバランスよく配置しました。
第二ヴァイオリン奏者にとても大きな誇りを持っています
東京シンフォニアでは、第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンが、指揮者をはさんで両側に配置されています。これは、第二ヴァイオリン奏者の力を信頼することの証です。何世紀もの間、熟練度の、より少ない奏者が、第二ヴァイオリンパートに配置されてきました。第一ヴァイオリンの隣に座り、その影で、安全に演奏してきました。しかし、これでは第二ヴァイオリンの音が聴こえてきませんし、バランスの取れた音のつながりがつくれません。オペラシーティングと呼ばれるものがこの問題を解決します。が、第二ヴァイオリン奏者にとっては、対面にいる第一ヴァイオリンと同等に弾くのは大変なことです。私はこの方法を選び、彼は第二ヴァイオリン奏者にとても大きな誇りを持っています。
美しい音作りができれば、オーケストラが有名になります
次に考えたのは、ヴィオラとチェロのシーティングです。よく考えた上で、ヴィオラを、向かって左側の第一ヴァイオリンの隣に配置しました。トスカニーニのシーティングです。ヴィオラの音は、低い音と高い音の橋渡しとなり、全体の音を融合させ、継ぎ目のないひとつの音をつくります。ヴァイオリンと同様に、ヴィオラのf字孔が客席に向くように座るので、とても聴きやすい位置になります。そのうえ、ヴィオラの音は第一ヴァイオリンの音をやわらげてあたたかくします。チェロも同様に、第二ヴァイオリンの音をあたたかくする役割を持っています。
各パートのサイズは、やはりきちんとした理由から、正確にバランスが取れています。第一ヴァイオリン5、第二ヴァイオリン5、ヴィオラ4、チェロ3、コントラバス2。すべて、バランスの問題です。各パートのバランスが取れていれば、音は自然と合います。音が合えば、和音が響きます。和音が響けば、美しい音づくりができます。美しい音作りができれば、オーケストラが有名になります。
東京シンフォニアでは、全員がソリスト
私が、最初に19人編成の東京シンフォニアのリハーサルをした時、各パートのトップ奏者を、できるだけ小さい輪になる配置にしたかいと考えました。というのは、シンフォニーオーケストラの場合には大きい輪にならざるを得ないでしょうが、私たちの場合は、弦楽五重奏のように近くに寄ってほしいと考えました。そこで、トップ奏者を一人で座らせて、五重奏のように配置し、他のパートとリンクし、各パートを代表するようにしました。このシーティングは、これまでの経験では効果を奏していて、東京シンフォニアのトレードマークとなっています。
私は、一人一人の奏者をとても大事にします。ロジャー ブルッキンが言ったように、東京シンフォニアでは、全員がソリストです。
東京シンフォニアの演奏曲目
オーケストラが美しいサウンドを持っているならば、それを表現するのにふさわしい演奏曲目があるべきです。ところが現実は、管楽器がオーケストラに加わり、カラフルでドラマチックな要素をプラスするようになってから、作曲家にとって、弦楽オーケストラ作品を書くことは二の次になってしまいました。よく演奏される協奏曲、ソナタ、四重奏曲、交響曲、交響詩には、たくさんの数があります。そして、その中から、プログラム構成として、30分またはそれ以上のメインの曲が選ばれます。しかしながら、今、会場にいらっしゃる方で、30分の長さの弦楽オーケストラ曲を挙げられる方はいらっしゃいますか?
プログラムのメインになるような弦楽オーケストラ用の楽曲が不足していることから、私は、室内楽曲で、弦楽オーケストラに編曲できるものがないかと考えました。これにはいくつかの先例があります。シェーンベルクの『清められた夜』。シューベルトの『死と乙女』、これはマーラーがオーケストレーションをするつもりだったようです。そしてブリテンの『シンプルシンフォニー』、原曲は弦楽四重奏曲でした。
幸運な出だし
私は、ブルックナーが、音を大きなかたまりとしてよく使うことから、編曲できる曲があるのではないかと思いました。調べてみると実際に、ブルックナーの弦楽五重奏曲で40分というの長さの曲をみつけました。偉大な楽曲であるのに、演奏されていません。これはまったく幸運な出だしでした。続いて、弦楽五重奏曲を数曲みつけました。どれもが、優れた曲であるのに、楽器編成のためにあまり演奏されることがなかった曲ばかりです。音楽家の夢である、ベートーヴェン、ブラームス、ドヴォルザーク、メンデルスゾーン、シューベルトの作品です。
このプロジェクト、「The Symphonies for Strings」には二倍の効果があります。まず、弦楽オーケストラのためのレパートリー曲をたくさん増やすこと。その次に、編曲をして演奏されなければ、人々の耳に届くチャンスがない曲をコンサートホールで演奏することです。
演奏がエネルギッシュであるし、両側から交互に音が生まれてくる
私のオーケストレーションでは、メロディーを自由に二つのヴァイオリンパートに行き来させ、アンサンブルの中で、二つのヴァイオリンパートをほとんど同じくらいの比率で使います。このエネルギーのトランスファーは、聴き手によく伝わっています。テクニックを知ることなく、聴く人は、私たちの演奏がエネルギッシュであると言ってくれますし、両側から交互に音が生まれてくるエキサイティングな演奏を賞賛してくれます。
優れた演奏者にマッチした音楽的なコンセプト
このような理由から、私たちは、昔ながらのスタイルのオーケストレーションを演奏しないようになってきました。コンセプトの枠にこだわり過ぎていますし、現代では演奏者の実力が向上しているので、ふさわしくないからです。編曲するのに適切な曲をみつけて、私たちは、東京シンフォニア独自のオリジナル編曲版を演奏することが多くなっています。それは、東京シンフォニアの演奏者が優れているからこそできることですし、優れた演奏者にマッチした音楽的なコンセプトがふさわしいのです。
今お話ししたことは、3年目に入った東京シンフォニアの演奏で聴いていただけるはずです。日本の弦楽オーケストラをリードし、チャレンジと発展の年にしたいと思います。